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大塚実業株式会社 大塚雅之 社長

「一日一日をど真剣に生きる」

【「本質道場」師範候補選考会2025 REPORT】

※  本記事は、2025年3月に行われたPICC「本質道場」師範候補選考会での発表に基づいて作成されたものです。

 

 PICCの新しい学びの場である「本質道場」は、29名の道場生の中から、大久保会長に代わって講師役を務めていただく師範候補選考会を3月18日に開催しました。

 大久保会長が自ら講師を務める本質道場は、講師から一方的に教わるのではなく、自分や会社のHow to be =「在り方」について何度も何度も、深く考え、自分の中から自分自身の答えを見出していく点が大きな特徴です。

 今回は師範候補選考会で登壇し、師範に選ばれた大塚実業株式会社の代表取締役社長・大塚雅之さんのプレゼンテーションを紹介します。大塚さんが、この勉強会で学び、見出した「本質道場」の本質、それをどう自社の経営にどのように生かしていくか、皆様にとって参考になりましたら幸いです。

  
「一日一日をど真剣に生きる」

大塚実業株式会社 大塚雅之 社長

会社概要

大塚実業株式会社

代表取締役 大塚 雅之

  

 大塚実業株式会社は、栃木県足利市に本社を構え、独自の技術を駆使したオーダーメイドの「ろ布(濾布)」を製造している。

 「ろ布」はエアコン、掃除機などの家電から、食品、水処理などの工業用ろ過フィルターまで幅広く活用されており、人々の生活に欠かせない機械・装置の性能を最大限に引き出す上で重要な役割を担っている。

 品質の高さは業界内でも折り紙付きで、すべてのステークホルダーを尊重する経営を実践していることでも知られている。
https://ohtsuka-jitsugyo.com/

「本質道場」師範候補選考会でのプレゼンテーションより

 「本質道場」の本質としては、「社員を大事にしなければいけない」「目標を掲げなければならない」といったことが挙げられます。それらが大事であることは皆が理解していますが、本当に重要なのは、それらをしっかりとできているか、常に意識しているかということだと思います。

 

 本質を具現化するとき、在り方が問われますが、経営者が一番やってはいけないのは「皆がそうだから、当たり前だからこうする」という判断です。


 そもそも当り前って何でしょうか? 当たり前と本質の違いって?

 本質は不変なもの、当り前というのは、その時に多くの人がそう思うということであると思います。なので、あなたの当り前は私の当り前ではないかもしれないということを意識しなければいけないと思います。

  

 本質道場に出ていると、頭だけで理解していて、わかったふりをして、何もできていない、やれていないということを反省させられます。そして、自分なりに深掘りをした経営者の役割とは、「子どもを育てる親のように、一人ひとりの社員が大塚実業にいなくても、社会に出て一人で立っていけるように育て上げること」だと思っています。

  

 そのような考えに行き着いたのは、台湾にある飲食店の社長の話を聞いたことがきっかけでした。「飲食店は人が辞めてしまいませんか」と尋ねたところ、社長は「辞めても構いません。私たちがやるべきなのは、その人が社会に出て自分の幸せを追求することを手伝うだけです」とおっしゃっていました。

 

 「引き留めないのですか」とも聞いたのですが、「その人が幸せになろうとするなら、応援しなければなりません。親とはそういうものです。ここに帰ってきたくなれば、帰ってくれば良いのです」とニコニコとお話されていたのは、とても印象的でした。

  

 「すごく広い心だ」と感心させられたと同時に、自分は「いかに引き留めるか」ということばかり考えていたことに気付かされました。これは、社員のことを第一に考えているのではなく、自分都合で物事を判断していたのだということに気付いたのです。社員を大切になどと言っているのに、考えのベースは自分本位であったということは恥ずかしくて仕方が無かったです。本質道場で学ぶようになって先述しているように経営者とは社員一人一人が世の中でキチンと一人で立っていけるよう親のように育てるという考えから引き留めることをやめました。

    
「本質道場」師範候補選考会でのプレゼンテーションより

師範選考会でプレゼンを行う大塚社長

 経営者は、ぶれることのない自分の経営哲学を持たなければなりません。そのような経営哲学を持つ上で、本質道場には同じ方向を向いているPICCの仲間と壁打ちができる機会がたくさんあります。こんなに、お得なことはありません。

  

 そもそも一人だけでは、個人としての謙虚さと経営のプロとしての強い意志は身につけられません。ここに来れば、同じ方向を向き、信頼できる仲間がいるので、学ばない手はないと思います。学びわかったつもりになっても、本当にできているのか? 実行できて結果がともなってきているのか? 人は忘れやすく、常に意識していることは非常に難しいと思います。

 

 自分ではそれなりに学んでいるし、やれていると思っていたものの、実は全然学んでいないということに気付いたのは、コロナ禍のことでした。

  

 工場の社員から「できるだけ現場に来ないでほしい」と言われる状況が3、4年続いたのですが、「自分は一生懸命動いているし、いろいろなことをしている。皆も見てくれているはずなので、背中を見せておけば大丈夫だ」と思っていました。ところが、いざ振り向くと誰もいなかったのです。

  

 そこで、本質道場が始まってからは、直ぐに50人ほどいる社員全員と1on1面談を行い、「この4年間はどうだったか」という話を聞きました。1人30分の予定でしたが、皆が1時間くらい話してくれたことには驚きました。今では、工場を歩いていると目が合うだけでニヤ~と笑ったり、何気ない話を社員からしてくれる雰囲気になってきています。まだまだだとは思いますが、社内の風通しはずいぶん良くなっていると感じます。

  

 今年の抱負は、1on1面談の質をさらに引き上げることです。稲盛流コンパを取り入れたり、社員との交流を徹底的に深めたりしようと思っています。

  

 自分のテーマは「一日一日をど真剣に生きる」ことです。大久保会長に以前、スケジュール管理の方法を質問されたことがあります。「アポイント、打ち合わせの合間に書類作成などの業務をやります」と答えたら、「それは本当にあなたがやりたいことなの?」と言われました。

  

 そこで、「自分は何をしたくて仕事をしていたのだろうか」と思い、「本末転倒」の日々を送っていることに気付きました。今は、周囲に仕事を割り振っているので、かなり手離れが良くなっています。システムも導入し、自分が本来やらなければいけないことに注力できる環境を構築するべく頑張っています。

  

 社員は新しいことや変化を嫌いますが、その原因となっている恐怖心を撤廃しなければならないと考えています。先代社長は「なぜ、出てもいないお化けを怖がるのか。まだ何も起こっていない。起こった事象を確認してから、打てる手を考えれば良い」と、よく言っていました。自分もまずはやる、前に進むと決めることを大事にしています。

  

 まだまだ未熟な人間ですが、社員と一緒に成長しながら、また皆さんと一緒に成長させていただきながら、これからも頑張っていきます。

  

※  本記事は、2025年3月に行われたPICC「本質道場」師範候補選考会での発表に基づいて作成されたものです。

取材協力:

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