PICC 経営者のために公益資本主義を

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会員紹介

株式会社フォーシックス

当社の理念ミッションはPICCの「公益資本主義」そのもの。社会性と経済性を両立させ社会貢献事業へ邁進!

【PICC会員企業紹介】

※  本記事は、2024年5月に掲載されたものであり、掲載当時の情報となります。

  

 「インド建国の父であるマハトマ・ガンジーの教えに倣い、人を許すということを心に留めながら日々仕事に向き合っています」

 そう語るのは株式会社フォーシックスの代表取締役、柳川誉之さんだ。大阪の下町に7人兄姉の末っ子として生まれ、家業を営む父や喫茶店を経営する兄姉を見ながら育ち、7歳で「働く」ことを覚えたという。

  

 20歳で兄の急逝に伴い喫茶店を承継し、その後20代、30代と複数の事業を経験。2013年に閉店を余儀なくされた海鮮居酒屋をスタッフも含め引き継ぎ、株式会社フォーシックスを設立。以後、障害者も積極的に雇用している。従業員の居場所となり、誇りを感じるような会社をめざし掲げた理念とミッションは、まさにPICCの大久保会長が提唱する「公益資本主義」に通じるものといえる。

  

 現在、飲食店事業を柱に、飲食店のサブスクリプションサービス、「EAT AND DELIVER(通称イーデリ)」を展開し、自殺者減少や障害者雇用拡大をめざす社会貢献活動にも注力している柳川誉之さんに、企業経営におけるビジョンの重要性やPICCでの学び、「王道経営実践7つの柱」での取り組みなどについて伺った。

  

当社の理念ミッションはPICCの「公益資本主義」そのもの。社会性と経済性を両立させ社会貢献事業へ邁進!

株式会社フォーシックスの代表取締役、柳川誉之さん【画像提供:株式会社フォーシックス】

事業紹介

 育った環境もあり、幼い頃から「働く」ことに興味を抱く子どもだったような気がします。12歳にして学校の給食費を自分で賄っていたほどですから。ただ、40歳近くになるまで、自ら起こした事業を含めいくつもの仕事を経験し、収入がゼロから数億円までとかなり波瀾万丈な時期を過ごしていました。

 転機は知人から居酒屋の再建を任されたことに始まります。精一杯やったものの結果的に閉店が確定。ですがその時、職を失うことで居場所も無くしてしまう従業員をそのまま放っておけなかったんです。思いがけず、株式会社フォーシックスを設立することになり、従業員の居場所づくりに加え、社会問題でもあった自殺者減少や障害者雇用も会社の役割と定めました。

 そして、2016年に「海鮮居酒屋てつたろう」をオープンし、料理やサービスを通して地域の人に応援していただける100年企業をめざすことに。後に説明する会社の理念やミッション、ビジョンも全て従業員と共有することを徹底し、そのことが評価され、ホワイト企業アワード大賞の栄誉を手にしました。

  

 その後、2020年から本格化したコロナ禍。飲食業を営む当社にとっては存続の危機でしたが、大久保会長の「自分が苦しい時ほど人のために動く、それが社会貢献だ」という言葉を思い出し、最後の力を振り絞って「苦しくっても死んだらあかん。 “てつたろう”に来てください。無料で腹いっぱいご馳走します」とSNSに投稿したんです。コロナ禍で追い詰められた経営者や個人事業主たちへのメッセージだったんですが、瞬く間に拡散し、多くの方々から賛同の声が寄せられました。そこでクラウドファンディングを立ち上げ支援を呼びかけると、総額300万円を超える資金が集まり、結果的に4,000食のお弁当をホームレスや児童養護施設の子どもたちなどに届けることができたんです。この取り組みがきっかけとなり、飲食店のサブスクリプションサービス「EAT AND DELIVER」をスタートさせ、今にいたります。

 現在、このイーデリは、ホームレスの支援団体や子ども食堂、自殺防止支援施設、虐待防止団体などのNPO法人と連携を図りながら拡大しています。もし、全国にある約70万店舗の飲食店うち1%の7,000店舗がイーデリを導入すれば、日本社会は一気に変わると思っています。
 

事業紹介

サブスクリプションサービス「EAT AND DELIVER」のサービス概念図【画像提供:フォーシックス】

2023年12月に支給したお弁当【画像提供:フォーシックス】

経営理念とミッションを全ての従業員と共有し、ビジョンを示す

 当社は、「感謝する心を忘れず、人と人とのつながりを以て企業とする」という経営理念を掲げています。人に対して笑顔になったり感謝したりという気持ちは誰もが生まれながらにして持っている、というのが私の持論なんです。仕事を通して出会った方々にその心で接すること、さらに、会社はそもそも人と人とのつながりから成り立っているものだということを常に意識しています。そのもとでミッションとしているのが、スタッフとその家族、取引先、顧客、地域住民、出資者の幸福度を高め、自分たちも社会の一部だと認識し社会貢献を行うこと。社名である「フォーシックス」はこれら6つのために、ということに由来しています。

  

 この理念とミッションを実現可能なものにするため、アルバイトも含め全ての従業員一人ひとりと共有し賛同を得ていきました。その際には併せて、障害者雇用と自殺者の減少の必要性についても伝えました。これらは「『家族愛』をテーマに『居場所』を創造し、自殺者を減らしていく。障害者雇用率6%を達成し、人間的バリアフリー環境の100年以上続く企業を目指す」というビジョンとしても明言化しています。周囲からはよく、福祉事業を行う会社のようだとも言われるんですが、そもそも福祉とは人が物心両面で満たされ幸せになるということ。その意味からすれば、私は全ての事業者が福祉の観点で仕事をするべきだと考えています。

  

 当社のビジョンでまず触れている「家族愛」とは、決して血縁の家族だけから生まれるものではなく、地球という一つの場所で生きている者同士で育む愛情だと定義しています。その愛情あふれる居場所があれば、自殺者は減るはずだと私は信じているんです。さらに、ビジョン作成時国内人口の約6%が障害者であるということから障害者雇用率6%達成をめざし、従業員同士がお互いの心の壁を少しずつフラットに近づけることで、息の長い企業に成長させていきたいという展望を持っています。(2024年4月現在、3名の障害者が在籍)

  

経営理念とミッションを全ての従業員と共有し、ビジョンを示す

業務中の従業員。笑顔が絶えない職場だ。【画像提供:フォーシックス】

PICCからの学び

 知人から、ぜひにと誘いを受け参加したのが、PICC関連のセミナーだったんです。その中で耳にした「公益資本主義」という考え方は、私にとってはすでに会社の理念やミッションとして掲げていた内容そのものでしたので、正直なところセミナー自体にはそれほど魅力を感じませんでした。ですが懇親会で、会員の皆さんの人柄と経営者としての真摯な姿勢に共感し、その後、公益資本主義推進協議会の大阪支部立ち上げメンバーとして関わるようになりました。正式にPICCに入会したのは、2014年に会が発足した直後です。

 公益資本主義が掲げる内容は、私にとって会社を経営する際に当然意識すべきこと。ただ、その当然を懸命に提唱しなければならないほど世の中の常識がおかしくなっているんだということも同時に痛感し、以降は、それまで以上に自信を持って理念やミッションを口にするようになりました。

  

 ですので、PICCでの学びは、私自身の経営に対する考えを確信に変える作業でもあるんです。例えば、当社で使用するおしぼりは、雇用者の7割を障害者が占める会社から仕入れているんですが、当社の業績が上がったタイミングで、おしぼりの単価を15%アップしてほしいと申し出たんです。障害者が笑顔で働く姿にいつも心和ませていただいていましたし、私としては取引先に対し当たり前のことをやったのみ。ですが、その会社の社長は、「長年この仕事をやってきて、値上げをしてくれた会社は初めて」と泣いて喜ばれたんです。そのことをPICCの会合で話した際には、大久保会長も「この会を立ち上げて良かった」と、声を詰まらせておられました。

  

 PICCでの最も大きな学びは社会性と経済性の両立です。例えば今、当社が行なっているイーデリは、生活困窮者に弁当や食事券を届けていると同時に、利益も確保しています。会社は経済性を担保しつつ社会課題を解決し、また人々のお困り事を解決するための存在だと改めて認識できたのはPICCの学びがあったからこそです。その意味では、企業もNPO法人も方向性は同じ。社会貢献につながる事業を自信を持って行えるようになりました。

  

 私自身、改めて公益資本主義を定義するとすれば、己の使命に基づいて生きるということでしょうか。人はそれぞれ生きていく中で、自分にしかできない使命があるはず。その使命を感じ動くことが、多くの人の幸福にもつながっていくと考えています。

  

PICCからの学び

専門学校前にて、障害をもつ青年が弁当販売責任者となり、出張弁当販売。初日の様子。
【画像提供:フォーシックス】

「王道経営実践7つの柱」の取り組み

 「王道経営実践7つの柱」について当社で実践していることについてご説明させていただきます。

 

まず「社会性」は、食の提供を通し人を笑顔にすることと、居場所づくりだと捉えています。特に障害者にとっての居場所として、当社の認知は確実に広がっています。実際、障害者福祉に関わる人たちの中で、「居酒屋てつたろうは障害者への理解が深く、また雇用も拡大している」という認識が広まり、毎月2回、福祉業界で働く人や障害児の保護者などがお店に集まり交流を深めています。多いときには100人を超える人たちがお互いの思いや悩み事を共有し、解決に結びつけている様子は、当社の理念でもある人と人とのつながりが実現している姿そのものです。

  

 「独自性」。これは間違いなくイーデリです。コロナ禍に突入した2020年、緊急事態宣言が発令された2日後にSNSで食事の無料提供を呼びかけたのをきっかけに、NPO法人と共にサービスを開始しました。誰も足を踏み入れてない分野に挑戦するという意味でも、NPO法人と連携し、社会貢献事業として実現化させたオンリーワンの事業です。

  

「王道経営実践7つの柱」の取り組み

EAT AND DELIVERでお弁当を支給する柳川さん【画像提供:フォーシックス】  

 「公平性」は、従業員の家族の状況などそれぞれの背景を考慮し、柔軟に対応することで保たれていると考えています。また従業員との価値観の共有を図るために、採用の際に通常の面接に加え、逆に採用予定者本人に私を面接してもらう機会も設けています。人を大切にする、障害者と共に働くという当社の方向性を確認するためにも必要な過程だと考えています。

 

 「継続性」については、困難に直面しても簡単にギブアップしない理念やビジョンを社内で共有し100年企業をめざしてはいますが、中長期的な視点で投資しているイーデリの継続性を考えると、資金調達の必要性を感じています。「経済性」の観点からも、過去3年にわたり毎年売り上げが増加しているものの同様のことが言えます。また、事業継続に不可欠なNo.2の育成もまだまだこれからです。

 

 「改善性」は、当社で言えば新商品開発。少なくとも1年に1商品の開発をめざしていますが、なかなか実現できていないのが実情です。どうしても、目の前の事象に一生懸命取り組めば改善につながると思いがちですが、今後、時代の変化や社会の変化を見据えながら、当社の新規事業にも積極的に取り組んでいくべきだと考えています。

 

 「魂の決断」は、イーデリを今後も継続していくということに尽きます。

 
 

 今後ですが、公益資本主義という考え方が一般的になればと思っています。目に見えないものを大切にする世の中になってほしい。ただ追い風として、目に見えるものに価値を置く「土の時代」から、目に見えないものに価値を置く「風の時代」に移り変わるつつあるということを意識している人も増えていますので、公益資本主義というまさに目に見えない風を起こす土壌は広がってきつつあると感じています。私たちが大切に思うものを地道に世の中に提案することで、その思いに共感する人は増えていくと確信しています。
 

企業概要

株式会社フォーシックス

代表取締役 柳川誉之

事業内容:

 飲食事業/旬菜鮮魚 てつたろう 梅田中崎町店、喫茶ナポレオン

 社会事業/EAT AND DELIVER

所在地:〒530-0015 大阪市北区中崎西3-3-15

資本金:300万円

設立:2013年1月

https://forsix.jp/

プロフィール

柳川誉之/やながわたかゆき

大阪府西成区出身。7人兄姉の末っ子として生まれ、大人ばかりの環境で育つ。7歳で家業を手伝い初めてお金を稼ぎ、12歳からは自らの給食費を賄う。20代から30代は喫茶店の経営の傍ら、通信、輸入、映像、IT業などを経験。

  

2013年 株式会社フォーシックス設立

2016年 旬菜鮮魚 てつたろう 梅田中崎町店開業

2021年 EAT AND DELIVER事業開始

  

自殺者減少と障害者雇用をビジョンに据え、誰も取り残されない社会の実現に向け邁進する。  
 
 
※  本記事は、2024年5月に掲載されたものであり、掲載当時の情報となります。

取材協力:

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