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株式会社サンチャイルド

自社とかかわるすべての人々にとって不可欠な会社をつくりたい

【PICC会員企業紹介 大久保会長との経営談義】
※   本記事は、2019年12月に株式会社フォーバルから刊行された『王道経営』第8号に掲載されたものであり、掲載当時の情報となります。
 

東日本大震災の翌年に会社を引継いで社長になった鈴木嵩弘さん。被害の大きさを知れば知るほど、「生かされた」という感情と地域に恩返ししなければならないという思いが強くなってきたといいます。多くの社員に退社されるといった試練の時期も経て、地域にとって欠かせない会社になるべく若い社員たちとともに歩み続ける鈴木社長に、これまでの歩みと今後の夢などについて伺いました。

自社とかかわるすべての人々にとって不可欠な会社をつくりたい

株式会社サンチャイルド

代表取締役 鈴木嵩弘(すずき・たかひろ)

1988年生まれ。石巻で生まれ育ち中学校卒業後、神奈川県の星槎国際高等学校(奥寺スポーツアカデミー)に入学。6才から18才までプロサッカー選手を目指した後、東洋カイロプラクティック専門学院に入学。卒業後、実家に就職。22歳で結婚。同時期に東日本大震災で被災する。震災を目の当たりにして死生観を考えるようになり翌年23歳で家業を継ぐことを決意。現在、妻と4人の子供、30名の仲間に支えられながら楽しい日々を送っている。

https://www.sunchild.jp/

手がける事業の共通項は地域に必要なものであること

――株式会社サンチャイルドは1971年11月、宮城県石巻市で創業しました。あと2年もたつと創業50周年という長い歴史を持っています。現在の代表取締役である鈴木嵩弘さんは創業者であるお父さんの後を継いで、2012年1月から経営のかじ取りをしています。事業内容は自動車の買取・販売・仲介、電気製品の販売および修理、介護予防サービスなどで、パートも含めた社員数は28名です。

 まず伺いたいのは、事業内容についてです。自動車関連、電気製品関連、そして介護となっていますが、関連性がほぼないと思われる事業を並行して行なっていらっしゃるのはなぜですか。

鈴木 まず、これまでの会社の経緯から話をさせてください。

 サンチャイルドは私の父である鈴木吉勝が個人事業として創業しました。創業当時は「電化のすずき」という、その名のとおり家電製品を扱っている個人商店でした。1988年9月に「有限会社電すず」として法人登記しまして、年1回行なっている創業祭のときには、3日間で1000万円を売り上げるなど順調に商売が伸びていったのですが、バブル経済が崩壊した影響や、1993年には父が大病したこともあり、それまでの商売のやり方を続けるのがきつくなっていきました。

 新しい商売を起こしたいと考えていたとき、船井総研のセミナーで中古車販売の「ガリバー事業」と出会いました。これが1995年のことです。そして、同年11月には石巻バイパスに「ガリバー石巻店」をオープンして、中古車ビジネスに参入し、1999年に有限会社サンチャイルド・コーポレーションへと社名を変更しました。

 そして、東北地方を大震災が襲った年の翌年、2012年1月に私が二代目社長に就任し、2017年に社名を現在の株式会社サンチャイルドに変更しました。その流れのなかで、私がかねてから手がけてみたいと考えていた介護事業に乗り出したのです。

 たしかに、家電、自動車、介護という各事業領域には関連性がないように見えますが、サンチャイルドが行なっている各事業領域を通じて、私たちは地元の子供から高齢者まで、ずっとかかわりを持ち続けることのできる仕事に携わっていると考えています。

 たとえば高齢者目線で考えたとき、地方は公共交通手段が限られますから、自家用車は必需品です。また、家電についても、単純にモノを売るだけでなく、修理を含めて高齢者に寄り添ったサービスが展開できます。また、今後は誰もが介護サービスを受けることが普通になっていきますから、そこにサービスを提供することによって、地元の人たちに愛され、必要とされる企業になれると考えています。

――鈴木さん個人としても、本業の会社経営以外に、公益資本主義推進協議会(PICC)教育支援委員長、小学校地域コーディネーター、中学校評議員、サッカー教室など、さまざまな活動を行なっています。幅広い社会活動に携わっているのはなぜですか。

鈴木 東日本大震災の翌年、代表に就任し、自分自身が何をしているのかを改めて見つめなおしたときに、「俺は金もうけのことしか考えていないじゃないか」ということに気づきました。そのようなときに大久保会長の経営塾でお話を伺う機会があり、「経営者は社会性、独自性、経済性の順番で経営を考えることが大切である」という言葉が心に刺さりました。さらにPICCの活動に携わるようになってから、自分自身が大きく変わったことを実感しています。それ以来、社員や地域に対する想いや接し方が変わってきました。

 そして、私が徐々に変わってきた様子を社員が見たことによって、社員自身もこの地域で事業を行なっている意味や、会社が世の中に貢献するために何ができるのかを考えるようになったように思います。少しずつ社員と私の価値観が合致してきたのです。

 その結果、信頼できるスタッフが増えてきたのはもちろん、離職率も下がってきました。それが直接売上の増加につながるかどうかは、もう少し時間が経過してみないと何とも言えませんが、いまのところ組織は円滑に動いています。

手がける事業の共通項は地域に必要なものであること

採用した人に合わせて次の事業を考えてみる

――社長の行動が社員のやる気につながるのと同時に、サンチャイルドが地元の人々に愛される会社になっていくわけですね。ただ、そのためには中途半端はダメで、自分の姿勢を継続していくことが必要ですし、その姿勢に共感してくれる社員を育てていく必要があります。現状、採用や社員教育はどうしているのですか。

鈴木  実は、求人募集はしていません。たまたま社員などから「一緒に働いてみたい」という人を紹介され、たまたまご縁やタイミングが合ったので採用してきました。しかし、採用した人がどのようなスキルを持ち、何をしたいと思っているのかを見極め、その人に合った事業を考えていった結果、新しい事業やサービスが増えてきました。私が代表に就任してから立ち上げた新規ビジネスは、多くがそういう経緯で立ち上げたものです。

 このように、社員が増えれば増えるほど、サンチャイルドが地元の人たちに対して提供できることが増えていくという社風は、今後も大事にしていきたいと思います。そのためには、社員や地元の人たちから「一緒に働きたい」「応援したい」と思ってもらえる会社であることが大事です。自分はいま何に価値観を見出そうとしているのかといった話は、頻繁に発信していきたいと思います。

――出会った人を採用する際にはどのような基準を設けているのですか。

鈴木 こちらが「この人なら採用する」、「あの人は採用しない」という判断基準はなるべく持たないようにしています。なぜなら、それを行なった時点でこちらは「採ってやった」、採用された側は「採ってもらった」という意識を持ってしまいます。ですから、初めて面接に来られたときには、業務内容はもちろんですが、未来について私たちが何を考え、どのように取り組んでいこうとしているのかをしっかりと語ります。それらをすべて聞いてもらったうえで、それでも入社したいという人を採用します。

――人に関連した話でいうと、3カ年の目標として、「自発的に考えられる人財創り!」ということを掲げています。具体的にどういう人財になることを期待しているのですか。

鈴木 この言葉には、社員一人ひとりが経営者になるべきだという想いを込めました。言われたからやるという受け身の仕事をするのではなく、目の前にある仕事について、どうしたらお客様にもっと喜んでいただけるのか、どうしたらもっと良くなるのかを自ら考えて、そのためのアイデアが思い浮かんだら、自ら積極的に情報発信してもらいたいのです。そうすることによって、皆で少しでも良い方向に現状を変えていこうとする気構えを共有することができると考えています。

 私たちのような地方で勝負している企業にとって、最後の決め手は人です。だからこそ、すべての物事について自分の価値観を入れて自己表現するような力を身につけてもらいたいと、社員に伝えているのです。

採用した人に合わせて次の事業を考えてみる

サンチャイルドが運営するガリバー石巻店

地元に魅力的な企業があれば地方経済も活性化するはず

――会社が進むべき方向というのは経営理念に集約されると思いますが、その点について詳しく教えてください。

鈴木 経営理念は3つあります。1つ目は、「最高の商品とサービスを提供し、お客様の満足を実現する」というものです。

 私は社員に「お客様のためにならないものを売ってはいけない」と言っています。たとえば私たちの店舗にクルマを買いにきた人がいるとしましょう。当然、私たちは自動車販売業ですから、一台でも多く売れれば売上や利益につながります。本来なら、積極的に営業トークを駆使して売るべきところなのですが、お客様によってはそのクルマを買ってしまったがためにローンの支払いに追われてしまい、毎月の生活がかなり苦しくなってしまうことも十分に起こりえます。もちろん個々のお客様が抱える事情や置かれた状況をすべて把握することは不可能ですから、どこまで見極められるかという問題はあります。しかし、それを把握しようと努力することによって、多少なりとも悲劇を回避できるのではないかと思いますから、そういう努力を怠ってはいけないと思います。

 多くの経営者は、どうしても売上、利益という点に関心が行きがちですが、私は利益を上げることが良い仕事であるとは考えていません。利益を上げる以前に、お客様が必要とする価値をきちんと提供できたのかどうか、自分が考えて行動をした結果、お客様が幸せになれたのかどうか、という点を重視するようにしています。

 2つ目は「社員の成長を願い、社員とその家族の幸福を実現する」です。

 幸福の定義は人によって異なりますが、私自身は第三者に与える影響が大きくなるほど幸福感は上がっていくものだと思っています。だから社員にも、自分自身が幸福を実感したら、会社の同僚にだけでなく家族にも伝える努力をしてほしいと伝えています。それを続けていけば、会社も家庭も素晴らしい組織になっていくのではないでしょうか。

 そして3つ目は「社会から必要とされ、認められ、尊敬される会社になる」というものです。

 ここでいちばん大事にしたいのは、地域経済を持続的に発展させるための礎になることです。地域あっての会社ですから、地元経済にどこまで貢献できるのか、地元の雇用をどこまで増やすことができるのかについては、常に意識しています。

 いま地方経済が疲弊しているのは、若者人口がどんどん地域の外に流出しているからです。なぜそうなっているのかというと、地元に残っていても仕事がないからです。そうであるならば、地元に魅力的な企業があり、そこが地元の若者をどんどん積極的に採用していたら、若者の人口流出にも歯止めがかけられるでしょう。そうすれば自分がこれまで住み慣れた町で、その町のために働くことができるようになります。ですから、まずはわれわれの会社が率先して地元の雇用を増やすことに注力していきたいと思います。

 

地元に魅力的な企業があれば地方経済も活性化するはず

100年ビジョンとともに10年、3年のビジョンも策定

――鈴木さんがつくり上げた理念を浸透させるために、これからもその言葉が持つ意味の一つひとつを経営者として社員にかみ砕いて伝えていくことが大事ですね。そのことさえできていれば、理想とするところまでの道のりの8割は進んだと思ってよいでしょう。

 その経営理念に加えて、私は鈴木さんがつくった100年ビジョンの「遺書に書いてもらえる企業」という言葉がとても気に入っています。一人の人間が最後にしたためる遺書に書いてもらえるようになるには、鈴木さんの会社に対して、非常に大きな満足感と幸福感がないと達成できません。ですから、これは非常に高い目標だと思うのですが、その高みに上るために、いまどのようなことを考えているのですか。

鈴木 生活にかかわる仕事をさせてもらっているので、子供からお年寄りまで、人生のどこかでサンチャイルドとかかわりを持っていただけた方が幸せになるにはどうすればいいのかを常に考えています。「かかわりを持った人」というなかには、お客様はもちろん、サンチャイルドの社員、その家族、お取引先も含まれています。

――そのために具体的に行なっていくことは何ですか。

鈴木 まずは社員とその家族が物心両面の幸せを感じながら、日々やりがいを持って働ける職場環境をつくることです。そして、地域のなかで、人と人、人とモノをつなげることで、人々が幸せになり、その結果として、サンチャイルドが「ありがとう」の気持ちをいただけるようにすることです。

 その2つを実現できているかどうかは、地域の課題解決のためにサンチャイルドグループが頼られて仕事のオファーが殺到していることや、サンチャイルドグループで働きたいという人が後を絶たないようになることで測ることができます。

 それはすなわち、サンチャイルドグループが、お客様、お取引先、社員など、かかわるすべての人々にとってなくてはならない存在になるということです。さらに、サンチャイルドグループで育った経営者が、同じ想いを引き継いで実践することを通じて100年ビジョンの達成につながるものと考えています。

――100年ビジョンと同時に10年ビジョン、3年ビジョンも策定しています。これらについてもお話くださいますか。

鈴木 大きな目標は100年ビジョンと同じですが、そこに至る過程として、もう少し実現可能性の高い、具体的なプランを2つ挙げています。

 10年ビジョンは「一度は名前を呼んでもらえる企業」になるというものです。その中身として、「サンチャイルドグループに頼めば、何でも解決できるような相談窓口が開設されていること。サービス利用者数が年間5000人を超えていること。事業承継で企業を引き継ぐことも行ないながら、企業間同士のパイプ役も果たしていること。サンチャイルドグループの拡充を図るうえで経営者育成にも力を入れていること。自動車部門は販売部門、整備部門が拡充していること。家電事業は単独店舗としての出店ができていること。介護事業は施設が5店舗になっていること。人々の生活に関わる事業が立ち上がっていること」などを目標に定めました。

 そして3年ビジョンは「応援団を作れる会社」というもので、その中身として、「事業承継で企業を引き継いでいること。自動車部門は販売部門と整備部門が拡充していること。家電事業は営業部門、施工部門ができていること。介護事業は2店舗体制で各店舗の施設利用率が90%以上になっていること。各事業部でリーダー人財を2名輩出していること」を目標として掲げました。

――100年ビジョンを聞いた社員の反応はいかがでしたか。

鈴木 100年ビジョン動画をフォーバルさんにつくっていただいて、それを社員全員で観たのですが、一様に感動していました。そして社員の意識が変わりました。

 私自身もビジョンを掲げることによって、これほどまでに社員の意識が深まるのだということを知りました。「同じ働くなら、そんな会社で働きたい」と言ってくれましたし、これまでほとんど発言をしたことがない社員がわざわざ私のところにきて「頑張ります」と言ってきてくれたりしました。

競争しても創業者には勝てないのだから二代目らしくやるべき

――いまは非常に良い方向に進んでいらっしゃると思いますが、これまで経営に携わってから苦労したことは何かありましたか。

鈴木 つらかったのは父から会社を継いで2〜3年目の時期です。私が後を継いでから2年のあいだに社員が半分になりました。結果として私がいちばん古参の社員になりましたから、私よりも前に入社していた人は全員辞めてしまったということです。

 いま思えば私自身の不徳の致すところとしか申し上げようがないのですが、当時は父を超えようという意識が強かったので、とにかく数字を上げることに注力しました。それがあるからいまがあるともいえるので後悔はしていません。しかし、他にもやり方があったと思います。その結果、組織的にはゼロスタートに近い状態になったので、会社を大きく変えていくにはちょうど良かったともいえますが、現実問題としては売上、利益が落ち込みましたし、人が抜けていくのを止められない自分の力不足も痛感しました。

 このままだとマズイなと、焦りの気持ちが出てきたときに、ちょうどPICCの集まりに参加する機会を得たのです。このときの経験が大きな転機でした。周りの人からも、まさにその時期から変わったと言われますし、自分の実感としても、いまのほうが自分らしく動けていると思います。やはり二代目としてのプレッシャーが強かったのかもしれません。

――世の中にはたくさんの二代目経営者がいますが、ご自身の経験を通じて、そういう人たちに伝えたいことはありますか。

鈴木 自分らしさを意識し、自分らしく事に当たることだと思います。先代がどうだったのかということを必要以上に意識しなくてもいいのではないでしょうか。

 もちろん、会社の理念など大事なことについては、先代の考えの良い部分は尊重してきちんと継承していく必要がありますが、やり方は自分らしさを打ち出すべきだと思います。

 私自身の経験からいえば、何をやろうとも結局、創業者には勝てないと思っています。売上や利益といった数字の面では勝っているとしても、最終的には「キミのお父さんはすごかった」と言われてしまうのです。どうせ創業者には勝てないのであれば、真似したり、競争したりしようとするのではなく、自分らしく、自分の想いに挑戦してみればいいのではないかと思います。

――最後に、鈴木さんにとって経営者とは何か、企業はどうあるべきだと考えているかを聞かせてください。

鈴木 経営者とは自分の価値を表現できる最大のチャンスを持っている人だと思います。そして企業というのは、同じ想いを持った人たちが集まり、各人の個性を発揮しながら皆を幸せにするための場であるべきですね。まさに社会の公器だと思います。

――ありがとうございました。

競争しても創業者には勝てないのだから二代目らしくやるべき

◉株式会社サンチャイルド 会社概要

設立:1988年

資本金:1200万円

社員数:28名

事業所:ガリバー石巻店

    サンチャイルド自動車整備工場

    ベスト電器石巻店

    便利屋BEST

    デイサービスももとせ

    結婚相談所Liberty

地域密着活動:挨拶運動

       サンチャイルド・キッズフェスティバル

       10人乗りハイエース無料貸し出し

       川開き祭り出店

       小学校地域コーディネーター 

◉株式会社サンチャイルド 会社概要

※    本記事は、2019年12月に株式会社フォーバルから刊行された『王道経営』第8号に掲載されたものであり、掲載当時の情報となります。

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